『雲を紡ぐ』伊吹有喜
父の祖父母の手による宮参りのお祝いのホームスパンの赤いショール。
いじめから不登校になっていた高校生の美緒はそれにくるまっていると安らぎを覚える。が、教師の母親はそれをよしとはせず、処分してしまう。
そんな家を飛び出し一人、ショールにつけたれたタグを頼りに行ったことのない祖父の工房、盛岡に行く。
宮沢賢治の言う「きれいにすきとおった風」や「桃いろのうつくしい朝の光」に美しい空気に満ちた盛岡で。
手始めに自分でショールを作ることをすすめられ、ホームスパンの工房で見習いをする。
祖父に導れながら、自分の好きな物、好きなこと、好きない色など、懸命に自分の夢や道をみつけようとする。
「切れてもつながる。切れた糸と新しい羊毛を握手させて撚りをかけるんだ」
「大事なものののための我慢は自分を磨く、ただつらいだけの我慢は命が削られていくだけだ」
「羊毛や布地は柔らかい。そういうものに日々触れていると、相反するものに触りたくなるんだ。冷たくて固いもの、つまり石だ。指の感覚が研ぎ澄まされる・・・」
職人の丁寧な仕事と盛岡の澄んだ空気感と岩手山。そして宮沢賢治。
美しい小説。
祖母の想いは孫へと受け継がれていくのだな。美しい一本の糸のように。